建設業のDXとは?公開事例と、中小の建設会社が「まず書類仕事」から始める理由

「建設業もDXを」と言われる機会が増えました。けれど、現場では「結局なにをすればいいのか分からない」という声もよく聞きます。
この記事では、建設業のDXとは何かを国の公開情報から整理します。次に、国土交通省の事例集や各社の公開ページで確認できた事例を紹介します。最後に、中小の建設会社がつまずきやすい課題と、まず何から始めるかを考えます。
事例はすべて公開されている情報です。出典は本文と記事末にまとめています。
建設業のDXとは:デジタルの道具で、仕事のやり方を変えること
DXは「デジタルトランスフォーメーション」の略です。難しく聞こえますが、現場の言葉に直すと「デジタルの道具を使って、仕事のやり方そのものを変えること」です。
ポイントは「道具を入れること」ではなく「やり方が変わること」です。タブレットを配っても、紙の日報を写真に撮って送るだけなら、やり方はほとんど変わっていません。
建設経済研究所のレポートでは、経済産業省の定義として、データとデジタル技術を使って製品やサービス、ビジネスモデルを変え、業務や組織、プロセス、企業文化まで変えることだと紹介されています(建設経済研究所「建設経済レポートNo.77」)。
国の取り組み①:i-Construction と i-Construction 2.0
建設業のDXを語るとき、よく出てくるのが国土交通省の「i-Construction(アイ・コンストラクション)」です。ICT土工など、ICTを建設現場で全面的に使うことで、建設生産システム全体の生産性を上げ、魅力ある建設現場を目指す取り組みです(国土交通省「i-Construction」)。
国土交通省は令和6年4月16日、その次の段階として「i-Construction 2.0」をとりまとめたと発表しました。2040年度までに建設現場の省人化を少なくとも3割、つまり生産性を1.5倍に上げることを目指すとしています(国土交通省 報道発表資料「i-Construction 2.0を策定しました」)。
柱は次の3つです。
- 施工のオートメーション化
- データ連携のオートメーション化
- 施工管理のオートメーション化
国の取り組み②:インフラ分野のDX
もう一つのキーワードが「インフラ分野のDX」です。沖縄総合事務局のページでは、データとデジタル技術を使って社会資本や公共サービスを変え、業務や組織、プロセス、建設業や国土交通省の文化・風土や働き方まで変えるもの、と説明されています(沖縄総合事務局「インフラ分野のDX」)。
国土交通省は、優れた取り組みを表彰する「インフラDX大賞」も設けています(国土交通省「i-Construction」)。
ここまでを見ると、国の取り組みは公共工事・土木の現場が中心です。ただ「デジタルの道具でやり方を変える」という考え方は、建築や専門工事、事務の仕事にもそのまま当てはまります。
建設業DXの公開事例4件
ここからは、公開ページで内容を確認できた事例を紹介します。中小〜中堅の会社の事例と、大手の事例を分けて並べました。
事例1:伊藤組土建(北海道)クラウドとタブレットで情報共有
国土交通省がまとめた「建設業における働き方改革推進のための事例集」(令和5年5月)に、伊藤組土建株式会社の取り組みが載っています(国土交通省「建設業における働き方改革推進のための事例集」)。
- GPSの情報を使うICT建機(バックホウ)の導入
- 仮設計画やステップ図の検討にBIMを活用
- 現場職員にiPadを支給し、施工管理アプリを導入
- クラウドストレージで書類や図面のデータを共有
事例集では、測量の手間が減ったことや、iPadの使用で現場職員の労働時間の削減に効果が出ていることが紹介されています。
事例2:石川建設(群馬県)帳票の自動出力で事務作業を短縮
同じ事例集には、石川建設株式会社の取り組みも載っています。
- ドローンやレーザースキャナで3次元測量を行い、土量を算出
- 点群データを使って安全施設の配置を検討
- 施工管理アプリの帳票自動出力機能を活用
事例集によると、石川建設では土量算出の作業や、帳票の自動出力による事務作業の短縮に取り組んだことが紹介されています。
注目したいのは、測量のような現場の仕事だけでなく、帳票や書類といった事務の仕事にも手を入れている点です。
事例3:清水建設 全従業員向けに汎用の生成AIを提供
清水建設は2024年3月26日、ChatGPTをベースにした企業向けの生成AIサービス「法人GAI」を2023年11月から導入し、全従業員向けに提供を始めたと公表しています(清水建設「全従業員向けに生成AIサービスの提供を開始」)。
同社の公表では、使い道は調査、アイデア出し、文書生成、プログラミング補助、要約などです。従業員からは、メール作成などが楽になったという声が紹介されています。
一方で同社は、調べものに使うともっともらしい誤り(ハルシネーション)が多く出るため、使われなくなる心配もあると書いています。そのうえで、生成AIの得意・苦手や効果的な使い方について、引き続き教育を行う予定としています。
大手でも「道具を配って終わり」ではなく、使い方の教育をセットで考えている点は参考になります。
事例4:大成建設 生成AIの人材育成と、施工計画書の作成支援
大成建設は2025年11月17日、OpenAIと連携し、ChatGPT Enterpriseを使った人材育成と業務改革の全社プロジェクトを始めたと発表しました。2025年4月に250名で始まった育成プログラムは、同年8月に1,000名体制へ広がったとしています(大成建設「建設業界最大規模の生成AIプロジェクトが始動」)。
同社は2025年11月28日、土木工事の「全体施工計画書作成支援システム」の開発も発表しています(大成建設「最新生成AIを活用した土木工事の『全体施工計画書作成支援システム』を開発」)。この施工計画書のシステムは、同社が自社で開発した専用のシステムです。
大手ゼネコン各社のAIの取り組みは、清水建設・大成建設など大手ゼネコンのAI活用の記事でくわしく整理しています。
4つの事例を並べてみると
| 事例 | 主な道具 | 変わった仕事 |
|---|---|---|
| 伊藤組土建 | ICT建機、BIM、iPad、クラウド | 測量、計画検討、現場の情報共有 |
| 石川建設 | ドローン、3次元測量、施工管理アプリ | 土量算出、帳票づくり |
| 清水建設 | 汎用の生成AI+使い方の教育 | メール、文書、要約など日々の事務 |
| 大成建設 | 汎用の生成AIの研修/自社開発のシステム | 日々の業務/施工計画書の原稿づくり |
事例には、建機や測量機器のように投資が大きいものと、汎用のAIや教育のように比較的始めやすいものが混ざっています。自社の規模に合うものから考えるのが現実的です。
中小の建設会社にとってのDXの課題
大手の事例を見て「うちには無理だ」と感じる方も多いと思います。実際、中小の建設会社には特有の壁があります。
国土技術研究センターの報告では、中小建設業がデジタル技術を使ううえで「技術面」「費用面」「人材面」「制度面」の課題があると整理されています(国土技術研究センター「中小建設業のデジタル化の現状と今後の方向性」)。ここでは現場でよく聞く3つに絞ります。
課題1:費用がかかる
同じ報告では、ICT機械などのリース費用が高くなりがちなことや、補助金だけでは資金が足りないという声が紹介されています。
専用のシステムや機械は、1つの業務に強い反面、導入費や月額費用がかかります。現場数が少ない会社では、元を取るまでに時間がかかることもあります。
課題2:人が足りない
建設経済研究所のレポートでは、中小企業基盤整備機構の調査として、DXを導入済みの企業は従業員100名以上で33.1%、20名以下で7.6%と紹介されています(全業種の調査です)。課題として人材の不足が大きいことも挙げられています(建設経済研究所「建設経済レポートNo.77」)。
日々の現場を回すだけで手一杯で、新しい道具を試す時間がとれない。これは多くの会社に共通する悩みです。
課題3:ITに詳しい人がいない
国土技術研究センターの報告では、デジタル技術を扱える人材の確保が難しく、今いる技術者で対応している会社が多いことが示されています。
建設経済研究所のレポートも、建設業でDXを広げるには受注者・発注者の双方がITの理解を深め、学び直し(リスキリング)に取り組む必要があると述べています。
つまり「詳しい人を採る」より「今いる社員が使えるようになる」ほうが、現実的な道筋になりやすいと考えられます。
まず何から始めるか:専用システムの前に、汎用AIと社員教育で書類仕事から
ここからは、建設業向けAI研修を行っている当社(PlanTive)の考え方です。会社によって正解は違うので、一つの選択肢として読んでください。
高額な専用システムより先に、汎用AIを試す
ChatGPTやClaudeのような汎用のAIは、月額の利用料で始められるものが多くあります。1つの業務専用ではなく、文章・表・要約など幅広い事務に使えるのが特徴です。
清水建設や大成建設のように、大手も社員全員が使える汎用の生成AIと、その使い方の教育に取り組んでいます。この部分は、中小の建設会社でも規模を小さくして真似しやすいところです。
書類仕事から始めると効果が見えやすい
最初の対象としておすすめしやすいのは、現場の外で発生する書類仕事です。たとえば次のような作業です。
- 打合せメモから議事録や報告書の下書きをつくる
- 仕様書の要点をまとめる
- 下請けからの請求書を現場別に仕分ける
- フォルダの名前や並びを統一する
書類仕事は、現場の安全に直接かかわりにくく、AIの出力を人が確認してから使えます。失敗しても取り返しがつきやすいので、最初の一歩に向いています。
事務所に集まる書類やフォルダの整理については、現場書類とフォルダ整理をAIで回す研修で内容を紹介しています。現場写真の仕分けや原価の整理、請求書の集計など、施工管理の事務作業をAIで減らす研修もあわせてご覧ください。
道具より「使える人」を増やす
汎用AIは、入れただけでは使われません。清水建設の公表にもあるとおり、もっともらしい誤りが出ることもあります。
大事なのは、どの仕事に使うか、どこを人が確認するかを、社員が自分で判断できるようになることです。当社が建設業の書類仕事に合わせたAI研修を行っているのも、この考え方からです。
AIでまだ難しいこと
汎用AIにも苦手があります。次のような作業は、今の時点ではまだ難しいと考えてください。
- 図面から拾い出した数量や、読み取った寸法を、確認なしでそのまま使うこと
- その現場ならではの段取りを判断すること(AIは現場の事情を知りません)
AIの出力は「下書き」です。最後は現場を知っている人が確認する前提で使います。
小さく始める3ステップ
- 社内で「時間がかかっている書類仕事」を3つ書き出す
- そのうち1つを選び、数人で汎用AIを1〜2週間試す
- うまくいった使い方を社内の手順として共有し、人を増やす
当社の実演で試した使い方は建設業のAI活用事例(業務別の使い方)にまとめています。
まとめ
- 建設業のDXとは、デジタルの道具で仕事のやり方を変えること
- 国はi-Construction 2.0で、2040年度までに省人化3割を目指している
- 公開事例には、建機や測量のような大きな投資と、汎用AI・教育のような始めやすいものがある
- 中小の建設会社の壁は、費用・人・ITに詳しい人がいないこと
- まずは汎用AIと社員教育で、書類仕事から小さく始めるのが一つの選択肢
自社のどの仕事から始めるか迷ったら、建設業向けAI研修で書類仕事の進め方を一緒に整理するところからご相談ください。研修には助成金が使える場合があります(10時間以上の訓練が対象です)。条件は年度で変わるため、厚生労働省や労働局でご確認ください。
書類仕事から始めるとき、だれが受けるかで研修の中身は変わります。立場ごとの進め方は、経営者・現場監督・事務・若手の受講者別AI研修で紹介しています。
参考・出典
- 国土交通省「i-Construction」
- 国土交通省 報道発表資料「i-Construction 2.0を策定しました」(令和6年4月16日)
- 沖縄総合事務局「インフラ分野のDX」
- 国土交通省 不動産・建設経済局建設業課「建設業における働き方改革推進のための事例集」(令和5年5月)
- 清水建設「全従業員向けに生成AIサービスの提供を開始」(2024年3月26日)
- 大成建設「建設業界最大規模の生成AIプロジェクトが始動」(2025年11月17日)
- 大成建設「最新生成AIを活用した土木工事の『全体施工計画書作成支援システム』を開発」(2025年11月28日)
- 国土技術研究センター「中小建設業のデジタル化の現状と今後の方向性」(JICE REPORT)
- 建設経済研究所「建設経済レポートNo.77」Theme 6『建設業におけるDX』

